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「一人ぼっちになってしまったみたいです。」
「私が小さくて弱かったから。」
「俺が居るだろ。」
「でも私はこの場所に居られないんです。王様がそう言ってました。だからまた一人ぼっちになってしまいます。」
「じゃあお前が一人ぼっちにならないように、俺が迎えに行ってやるよ。」
「本当ですか?」
「ああ。もしお前が一人ぼっちになっても俺がお前を守ってやる。」
約束だ。そう言って右手の甲にキスをした。それは何も知らなかった子供の頃の約束。
あれからどれ程の時が流れただろう。ギルベルト・バイルシュミット。彼が私の目の前に現れた時、私は喜びに充ち溢れた。
城から逃げるかのように旅に出ていたある日、ローデリヒは馬車に乗って遠出をしていた。窓の外を眺めていると見覚えのある顔が目に映り、馬車を止める。予想外の出会いに心が躍る、不意に声をかけたら彼はどんな反応をするだろう。
「ここで何をしているのですか。」
小高い丘の上にある大きな木の下で眼を瞑っている彼に声をかけた。
「思い出してた。」
その言葉に幼い頃の約束をした思い出が蘇った。私にとってその記憶は何よりも大切なものだったから。
「何をですか?」
期待を含んだ声が溢れる。
「昔の思い出だ。」
そう言って彼はまた眼を閉じる。
「約束したんだ。俺が守るって。」
彼は今も約束を覚えてくれている。その事実に胸が熱くなった。
「俺が守ってやらないと駄目なんだ。」
そう語り、再び瞳を開けた彼の目は何処か遠くを見ていて、私の大切な人がこの場所に居ないかのような違和感を感じた。
「なぁ、お前なら判るんじゃないか?あいつの居場所が。」
その言葉にローデリヒの頭の中は一瞬にして真っ白になった。
彼は私の事を覚えてはいない。
彼にとって私は忘却する程の小さな存在だった。ただ、それだけのことなのに理解できない。
「どうなんだ?」
急に黙り込んだ私を不審に思ったギルベルトが顔を覗き込んできた。
このお馬鹿さんが!
「知っていますけどっ。貴方には見つけられません。」
無理矢理平静を装う。声が震えているが、気付かれなかっただろうか。本当は泣きそうだったけれど、ここで泣き出す訳にはいかない。
「どういうことだ?」
その時、心の中で何かが囁いた。
ならば忘れられない記憶を彼に与えれば良い。
「彼ならもうこの世にはいません。」
私の口は無意識に彼にそう告げていた。
「どういうことだ?」
「あの子は死にました。」
そう告げた時の彼の顔は今まで見たことが無いほど衝撃に満ちていた。次の瞬間私は彼に襟元を締め上げられていた。
「嘘だろ!?」
息が詰まる。それでも言葉を繋いだ。
「他国に攻められて呆気なく死にました。」
締め上げている手が離される。
「なあ、お前なら助けられたんじゃないのか?」
「だって、あの子が死んでも私には関係のないことでしょう。」
見る見る彼の顔が怒りに満ちていく。これでいいのだ。何を期待していたのだろう。彼が私を助けに来てくれるとずっとずっと信じていた。しかし、叶わない夢をいつまでも見るのは終わりにしなければならない。
―――「ギルベルト。では私は永遠に貴方を愛することを約束します。」―――
これは子供の頃の貴方への約束。
『戦いは他に任せて、幸せなオーストリアよ汝は結婚せよ』
あの約束の後。故郷を離れて暮らしだした場所は幸いにも土地が良く、傷ついた身体を癒し、穏やかな生活を得ることができた。
しかしその平穏な時は短く、直ぐに他国から目を付けられることとなった。
そんな時、他国に和解を申し入れるようローデリヒに命がくだった。しかしその和解の条件はローデリヒが個人として婚姻関係を結ぶことだった。そうすれば全てが上手く行く。争いが苦手なローデリヒにその決定への拒否権は無かった。
私は婚姻関係を繰り返し、大国を築くことに成功した。しかしそこに残ったのは、穢れた自分への嫌悪と罪悪感。
ギルベルト早く私を助けにきてください。
回り出した歯車は壊れるまで止まることを許されない。