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もう一緒に過ごせる時間が僅かだとわかっていたのに。つまらないことで喧嘩して、素直になれないままで。
『貴方のことが好きなんです』
そう伝えられないまま。
「ちょっと出かけてくる。」
そう言って彼は私の前から居なくなった。
行き先はわかっている。彼が向かったのは極寒の地ロシア。私には追いかけることも許されず、私をこれから監禁するべく寄越されたフランスからの監視がつけられていた。
ずっと後悔してることがあります。
どうしてあの時素直になれなかったのか。今の私には彼のことを知るすべもなく、唯一の情報源は目の前にいるフランシスのみ。
いつまでこの状態が続くのか見当もつきません。100年先か、200年先、あるいは1000年以上このままかも知れませんし、全てを壊滅間近に追い込まれた私の状態が長引けば消滅する可能性も有ります。
私は紙と万年筆を取り、彼へ手紙を書くことにしました。
もちろん今の状態でこの手紙を彼に渡すことは不可能です。屈辱ですがフランシスにお願いすることにします。
当然自分に利益の無い取引をフランシスが認めるわけがありません。
しかしこの身体は私のもので有りながら、既に私のものではありません。つまり私の手元には取引対象となるものが何も無かったのです。
否一つだけ最後まで残しているものがあります。本当は最後まで取っておきたかったのですが、これもいつまでも残していても消滅してしまえば無いも同じです。ですからフランシスには私の心を差し上げることにしました。
だからどうか彼に渡してください。
ギルベルト・バイルシュミット消滅。
何が起こったのか理解できませんでした。私の手紙は彼に届くことなく、返ってきたのは貴方の訃報です。
ようやく内容を受け入れましたが何も感じません。そう、手紙を運んでいただく代償として私は心を既にフランシスに差し上げてしまったからです。それなのに何故、私の視界は歪んでいるのでしょう。
とても長い時が経ちました。もしかするととても短かったのかもしれません。そんな私の目の前に懐かしい面影が現れました。
「ただいま、坊ちゃん。」
そう、貴方は消滅などしていなかったのです。
貴方が私の元に再び現れたとき、無くなったはずの私の心は確かに喜びを感じていました。
きっと私の手紙が貴方に届いたのでしょう。
今、貴方の声や優しさを感じることができる私は本当に幸せです。
『貴方に逢いたくて仕方ありません。
どうか無事で戻ってきてください。
その時には私の心はこの場所に無いかもしれませんが
私の無くした心を埋められるのは
貴方しか居ないのですから。』