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「遅い!!」
吾輩は約束の時間に現れない男に苛立ちを感じていた。
かくなる上は無理やり家から引きずり出して打ち合わせを遂行するしかない。
戦闘態勢を素早く整え、奴の家に向かう。
奴の家には顔を合わせたくない相手がいるが致し方ないだろう。
道を歩いていると目の前に約束の相手―ギルベルト・バイルシュミットが慌てて走っていくのが見えた。
しかし、待ち合わせとは逆の方向に。吾輩との約束をすっぽかすなど許さん、断じて許さんぞ!!
「待て!!」
吾輩は猛烈な勢いで奴の後を追いかける。
「うぉっ!?何だ!!」
この際奴の耳に兎の耳が生えていることなど関係ない!…ん?ウサギの耳?
そう思った時には深い深い穴の中に落ちていた。
着地。
日頃から鍛えていた事もあり、結構な深さが有ったにも関わらず見事に着地を決める。
そして目の前にはピンクを基調とした珍妙な建物が有り、吾輩はまるで迷路のようなその建物の恐らく庭であろう場所に立っていた。
そんな吾輩をギルベルトが怪訝な顔で眺めている。
「なんなんだ?一体。」
「貴様打ち合わせに来ずに何だなどと…」
銃を向けながら詰め寄ろうとすると、そこでハートのステッキに遮られた。
「私のウサギに銃を向けるのは許しません。」
聞きなれた声に顔を向けると其処には豪奢なドレスを着たローデリヒが立っていた。
「あら、」
そう言うと顔をまじまじと眺められる。
近すぎるのではないだろうか、と思ったところでローデリヒのスカートが思いっきり捲れ上がった。女性もののセクシーな下着が丸見えになる。
「!!」
その後ろには猫の耳を付けたフランシスが楽しげに立っていた。
「クイーンの今日の下着は黒のレースか。」
「このお馬鹿さんが!!今日こそその首刎ねて差し上げます。」
そう言うとローデリヒは素早くスカートを上げて太ももに隠していた小型のナイフを取り出そうとした。が、ギルベルトに抑えられる。
「クイーン無理するな。」
それと同時にフランシスの背中には何時の間に現れたのか、衛兵のような格好をしたルートヴィッヒの銃が突き付けられていた。フランシスは観念したという風に両手を上げる。
「縛りあげておしまいなさい。」
瞬く間に縛りあげられたフランシスがルートヴィヒに確保された。
「貴方はこちらにいらっしゃい。」
そう言ってローデリヒに腕を引っ張られる。そこで吾輩のスイッチがはいった。
「何故吾輩が貴様の言うことに従わなければならんのだ!!」
その言葉にひどくビックリした様子のローデリヒにこちらの方が驚いた、これではまるでこちらが悪いようではないか。
「クィーン、お茶の準備が整いました。」
そこに現れたのは。
「リヒテン!」
こちらは可愛らしいメイド姿。
「あの、どうされたのですか?」
ひどく心配されているようだ、リヒテンに心配をかけるのは心が痛むのでここは大人しく従うことにする。
「何でもない、行くぞ。」
案内するように促すと、ローデリヒはホッとしたような顔をして案内を始めた。
――15分後――
「はて、ここは何処でしょう?」
やはりこ奴はローデリヒである。
「貴様あの珍妙な建物に向かっているのでは無いのか。」
「そうなんですけど、これはきっと城が私から離れて行ってるんです。」
その表情は真剣そのもので。ああ!本当に!!
吾輩は先ほどとは逆にローデリヒの腕をつかむと驚くべきスピードで城へと向かった。
「こんなに早く着いたのは初めてです。」
「それは良かったのである。」
幾分かげんなりと応対しているのに嬉々として返されて余計に疲労がたまる。
そして急にローデリヒに抱きつかれた。
「キングお帰りなさい。」
あまりのことに全身が硬直する。
「ところで貴方どうしてそんな恰好をしているのです?」
断じてそれを貴様に言われたくは無い。
「貴方が引き込もってばかりでしたから、ウサギも衛兵も気づかないじゃありませんか。」
「キング、こちらに着替えてくださいまし。」
そう言ってリヒテンから差し出されたのはローデリヒとお揃いの男性用の衣装。目眩がする。
いくらリヒテンの頼みとはいえ、ローデリヒの前でそれは頂けない。
「だってそいつはキングじゃないからね。」
どこから現れたのか、ローデリヒの耳元に顔を寄せてフランシスが囁く。
「!!!」
「このお馬鹿さんが!そんな訳がないでしょう!」
勢いよく立ちあがるローデリヒを後ろから楽しげに抱き締めだした。
その光景をリヒテンの前に立って遮る。
「お兄さんは何でも知ってるんだよ。なんなら本人に聞いてみればいいんじゃない?」
そうこうしている内にローデリヒは身動きが取れなくされていく。
「キング!何とかしてください。」
ダショーン!!!
フランシスがいけ好かないので無意識に身体が動いていた。
その音を聞きつけてギルベルトとルートヴィヒが部屋に入ってきた。
「何時の間に抜けだしたんだ。」
「ったく、クィーンに悪戯していいのは俺様だけだっつってんだろ!」
そうしてフランシスは再び縛りあげられていった。
「吾輩はキングとやらでは無い。」
そう告げた時のあ奴の顔ときたら。
「似ておいででしたので、てっきりキングだと思ってしまいました。許してくださいまし。」
「まぁ、よいのである。」
「クィーンのことも嫌いにならないでくださいまし。」
「ああ。」
もともとあ奴とは反りが合わないのだが、それは伏せておく。
「クィーンはキングのお帰りをもうずっと長い間待っていらしたのです。」
「そうであるか。」
クィーンとやらの嬉々とした顔が思い浮かぶ。あ奴のあんな顔は子供の頃以来であるな。
「私が元の場所に帰して差し上げます。」
「聞けば貴方ウサギの穴から落ちてきたそうですね。」
「私はハートのクィーンですから、問題ありません。」
「うむ。」
「少しだけこのままでいさせてください。」
ぎゅっと抱きつかれる。普段ならローデリヒにこんなことをされるなど思いもしないのだが、不思議とその感触が心地よかった。
「さようなら。」
そう言って頬にキスを受けた。
目が覚めるとそこはバイルシュミット家のベッドだった。
「気がつきましたか?」
目の前にローデリヒがいる。何だかデジャウを感じる。
「貴方急に来たかと思うと私に抱きついてキスをしだしたものですから、頭でも打ったのかと心配しましたよ。」
「!!!」
「それは断じて吾輩では無いのである!!」
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