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自宅に到着するとピアノの音が聞こえていた。普段家でピアノを弾く奴がいないので、新たな同居人だろう。
気に入らない顔を少しでも見ないようにバカンスをしていた俺は旅行も終わって久々に自宅のドアを開ける。その音に気付いたらしくピアノの音が止まる。その部屋から出てきた軽い足音が俺を出迎える為に近づいてきた。
「よぉ。」
目の前に現れた相手は俺のことを確認するなり驚いたような瞳を向けた後、ドアの前で固まった。どうやら俺がここに住んでいることを知らなかったらしい。
気に入らねぇ。
新しい同居人、ローデリヒ・エーデルシュタイン。昔からこいつの事は気に入らなかった。理屈なんかなく、ただこいつの顔を見てると無性に組み伏せたくなる衝動に駆られる。国としての向上心?他の国相手にそんな気持ちにはならないのに、とにかくこいつを見てると押さえつけて服従させたくなる。
昔から抗ってどんなに痛めつけても弱音ひとつ吐かなかったローデリヒ。そんな彼が今や俺達の保護下にあるのだ。顔も見たくなかった奴だがそう思うと笑えてくる。
これから楽しくなりそうだぜ。
同居生活が始まってから、俺の最近の日課はお貴族様に仕事をやることだ。
「おい、坊ちゃん。今からこの部屋を掃除しろ。俺様が帰ってくるまでに塵ひとつでも残ってたらピアノは弾かせてやらないからな。」
膨大な量の書庫を示す。ヴェストに掃除するように言われていたが、人気者の俺様には暇な時間など無い。しばらく掃除をしていなかった部屋はひどく埃っぽくなっていて、出しっぱなしの本で溢れている。この量を今日中に片付けるのはまず無理だ。
「わかりました。」
澄まして応える坊ちゃんだが、俺様の出す課題を未だクリアしたことは無い。
俺はお貴族様を部屋に残して遊びに来ている筈のヴェネチア―ノちゃんを捜しに行った。
相変わらずヴェネチア―ノちゃんは可愛い。この可愛さをあの澄ました坊ちゃんにも分けてやりたいくらいだ。
俺様が坊ちゃんに無理を承知で雑務を言いつけるのは、単に嫌がらせをしたかっただけではない。俺様の真の目的は坊ちゃんが俺に泣いて許しを請う様を見ることだ。
俺様は坊ちゃんの情けない顔を想像して密かに笑みを浮かべた。
次の日もその次の日も俺は坊ちゃんに仕事という名目で雑用を押し付けた。どれも決して一日で終わることのない量だ。そしてその命令には最後に必ず条件が付く。
「仕事が終わるまでピアノは弾かせてやらないからな。」
当然雑務が終わることなどない。ローデリヒのピアノの音はこの家に帰ってきたあの日以来聞くことは無かった。
深夜。友人達との飲み会も終わりを告げて帰路に就く。その道すがらアントーニョの言葉を思い出す。
「なぁ、ローデリヒまた細なったんちゃう?」
「そーかぁ。」
あの時は気のない返事を返したものの、確かにアントーニョの言うとおりローデリヒの細い体はさらに痩せていた。いささか無理をさせすぎだろうか。
少し罪悪感が芽生える。
そろそろピアノを弾かせてやろうか。
明日の夜は坊ちゃんを休ませてヴェストと3人でゆっくり飲もう。
「飲まないと言っているでしょう。」
「お止めなさい、ギルベルト。」
折角の誘いも坊ちゃんの断りで台無しだ。ヴェストからは仕事が長引くという連絡が入ったので2人きりだ。
嫌がられると余計にやりたくなるのが普通だろ?俺は嫌がる坊ちゃんに無理やり酒を飲ませた。
俺様は酒に強いが坊ちゃんはその見た目通り弱かったらしく、酒が入った途端心ここにあらずだ。
酔っぱらうことは大体予想していたが酔った坊ちゃんがどんな醜態を曝すか実は楽しみにしていた。しかし目の前のローデリヒは普段と変わらない様子で隣に座っている。
面白くねーな。
新たにジョッキにビールを注ぐ、再び顔を上げるとローデリヒの顔に雫が零れていた。
どんな時でも毅然と振る舞っているローデリヒが泣いているなんて、酔っぱらっているにしても衝撃的だ。
お貴族様の涙なんて初めて見たぜ。
綺麗だと思う。無意識に指が頬を撫でていた。
「泣くな。」
「泣いてなんていません。」
どうやら自覚は無いのらしい。その答えとは裏腹に涙は増えていく。その様子を見て不覚にも愛しいと思った。ずっと違う感情で隠していたというのに。
「私が人前で泣くわけがないでしょう、お馬鹿さん。」
「じゃあこれは何なんだよ。」
「知りませんよ。」
さらに涙が頬を伝う。
「もういい、ローデリヒ。我慢するな。」
その様子が痛々しくて、頭を引き寄せて抱きしめる。
「よくないです。ずっと昔に泣かないって決めたんですから。」
「…そうか。」
ローデリヒの無表情な顔を思い出す。
そこでようやく気付いた。こいつが無表情なのはずっと一人で我慢するしかなかったからだ。
「だって…ピアノが弾けないんです。」
ローデリヒの奏でるピアノにはいつも心が宿っている。ローデリヒの苦しみも悲しみも音が救っていたのだ。今ローデリヒが泣いているのは他ならぬ自分のせいだ。
「俺が悪かった。」
ずっと言いたかったことが、言葉になった。
「泣いてもいいぜ。」
俺が受け止めてやるから。
「私からピアノを取ったら何も無くなってしまいます。」
「もう私には何も残っていないのです。」
名前も住むところも。それは他ならぬ俺たちが奪ったものだ。
それなのに最後にローデリヒを救っているピアノでさえも俺は触れさせなかったのだ。
自分が求めていたのは涙ではない。本当は自分を頼ってほしかっただけだ。
それを知っていながらずっと自分を偽って言葉に出せなかった。
「俺達が居る。お前を守ってやるから。だから…」
ようやくこの感情が何なのかわかった。今なら伝えられる。
「ずっと俺の側に居てくれ。」
何なんだよあのメガネ。
結局あれから一度も姿を見ること無く、翌朝を迎えていた。 昨日の雷雨が嘘のような快晴。しかし何だか心が晴れない。 ヴェストは昨日再度仕事に出かけて深夜に帰宅した。 そして今朝再び出かけたらしく、テーブルには俺とローデリヒ 2人分の朝食が各々の席に綺麗に並べられていた。 昨晩から食事の支度もせず、機嫌を損ねて一度も姿を現さない ローデリヒに苛立ちを感じる。 この苛立ちは直接本人にぶつけなければ納まらない。 そう思ったら即行動だ。俺はすぐさまローデリの部屋に向かった。
強めにノックをする。が返事は無い。 鍵の付いていない部屋のドアを開けて主の許可なく中に入る。 「お前いい加減に!」 と、そこで部屋の異常に気付いた。ローデリヒには珍しく 服が部屋に散らばっている。そしていつもは起きている筈の ローデリヒがベッドの上にぐったりと横たわっていた。
近づいて肩を触ると…
すごい熱じゃねーか。
ふぅ…。
医者も呼んで一通り看病し終わって、ようやく一息ついた。
そこでようやく目を覚ましたローデリヒと目が合う。
「ギルベルト…」
「ありがとうございます。」
そこでそんなに素直なのは反則だろ。顔が赤くなるのがわかる、って何赤くなってんだ俺は!?
「俺様が何か食べるもの用意してやるぜ!」
楽しみにしとけ!そう告げると慌てて部屋を飛び出した。
冷蔵庫を開けると昨日坊ちゃんが買ってきた食材が分けられることなく入っていた。袋の中身を取り出して行くと、中身は俺様とヴェストの好きなものばっかりだった。
気を取り直して俺様は以前ヴェネチアーノちゃんから教わったカボチャのリゾットを作ることにした。
しばらく料理をしていると、ヴェストが帰ってきた。
「兄さん、ローデリヒは大丈夫か?」
「ああ、大分落ち着いてる。」
味見をしながら答える。さすが俺様、料理美味すぎるぜ。
「ちゃんと謝ったんだろうな。」
何のことだ?しばらく考えてそう言えば昨日謝るように言われていたのを思い出す。
「あー」
「まったく、昨日ローデリヒはずっと兄さんのことを待ってたんだぞ。」
「え?」
ローデリヒの部屋にできたてのリゾットを持っていく。サイドテーブルに置いて、ローデリヒを起こす。その体はやはり熱く、今にも倒れそうで自分に凭れさせた。体を動かすのもだるそうで、スプーンにリゾットをすくって冷ましてから口元に運ぶ。
「食べれるか?」
普段なら絶対に食べないであろう、よっぽど辛いらしく頷くと素直に食べ始めた。
「美味しいです。」
「当たり前だろ、俺様が作ったんだぜ。」
こうして抱いているとローデリヒが以前より細くなったのが分かる。
「貴方は暖かくて気持ちいいですね。」
そんなことを言うものだから先ほどより強く抱きしめた。
「ローデリヒ悪かった。」
「貴方は私の事が嫌いなのですから、仕方ないですよ。」
ちょっと待てよ。
「嫌いな奴だったらこんなに心配するかよ。」
「じゃあ治るまで責任とってくださいますか?」
「ああ、でも治ったら全部奪うぞ。」
「はい。」
そう答えてローデリヒは幸せそうに微笑んだ。
ワード先生がnoinの文字に修正をかけます。違うもん!そういう使い方だもん!
ねみぃ。
午後3時。昼間独特のポカポカとした陽気がギルベルトの眠気を誘っていた。ソファでうつうつしていると耳に電話のベルが聞こえた。
暫く無視していたが、しつこく鳴り響くベルに、とうとう居留守を諦めて重い腰を上げて受話器をとった。
「ギルベルト?私です。」
受話器から聞こえて来たのは聞きなれた同居人の声。通りで電話がしつこく鳴っていたわけだ。
「何だよ坊ちゃんかよ。」
俺様のがっかり感溢れる声にお前はどんな反応をするだろう。
「迎えに来てください。」
予想とは全く違う言葉が返ってきた。ローデリヒが自分に迎えに来てほしいと言うのは珍しい。そこで俺は閃いた。
「いいぜ。」
なるべく優しい声で答える。
「何処にいるんだ?」
聞くと。おいおい、直ぐそこじゃねーか。
「迎えに行ってやるから絶対そこから動くなよ。」
そう言って電話を切った。けせせ。もちろん直ぐに迎えに行く気は無いぜ。ゆっくり行って迷子の坊ちゃんの困った顔じっくり見てやるぜ。
俺様は20分後に出発する予定を立てて、万全のコンディションを整えるべく短い睡眠をとることにした。
待ってろよ坊ちゃん。
どおぉぉぉぉぉぉーーーーーん!!!!!
その音に驚いて目が覚めた。いつものキッチンから聞こえる爆発音とは桁違いの、腹からくるような凄まじい音だ。見れば先程の麗らかな天気が嘘のように窓の外は雷雨だった。
やべぇ!!
柱の鳩時計を見ると時刻は既に午後5時。俺は怒り狂うお貴族様を想像して慌てて玄関へ向かった。
それと同時に玄関のドアが開かれる。そこから早めに帰って来たらしいヴェストと雨に濡れたローデリヒの姿が現れた。ローデリヒと目が合う。烈火のごとく怒るローデリヒを想像していたが。想像と違ってローデリヒは怒る様子も無く、少し驚いた顔をすると直ぐに目をそらした。
「ルート、ありがとうございます。」
そう告げると俺の横を通り過ぎた。そんなローデリヒの様子を見たヴェストが胃を押さえながら俺に、兄さん、ローデリヒに謝ってくれ。って何で俺が謝らなきゃならないんだ。
大体ヴェストが迎えに来るんなら最初から俺様がわざわざ迎えに行くことなんてないだろ!
look forward to xx 【02】 へ続きます。
「遅い!!」
吾輩は約束の時間に現れない男に苛立ちを感じていた。
かくなる上は無理やり家から引きずり出して打ち合わせを遂行するしかない。
戦闘態勢を素早く整え、奴の家に向かう。
奴の家には顔を合わせたくない相手がいるが致し方ないだろう。
道を歩いていると目の前に約束の相手―ギルベルト・バイルシュミットが慌てて走っていくのが見えた。
しかし、待ち合わせとは逆の方向に。吾輩との約束をすっぽかすなど許さん、断じて許さんぞ!!
「待て!!」
吾輩は猛烈な勢いで奴の後を追いかける。
「うぉっ!?何だ!!」
この際奴の耳に兎の耳が生えていることなど関係ない!…ん?ウサギの耳?
そう思った時には深い深い穴の中に落ちていた。
着地。
日頃から鍛えていた事もあり、結構な深さが有ったにも関わらず見事に着地を決める。
そして目の前にはピンクを基調とした珍妙な建物が有り、吾輩はまるで迷路のようなその建物の恐らく庭であろう場所に立っていた。
そんな吾輩をギルベルトが怪訝な顔で眺めている。
「なんなんだ?一体。」
「貴様打ち合わせに来ずに何だなどと…」
銃を向けながら詰め寄ろうとすると、そこでハートのステッキに遮られた。
「私のウサギに銃を向けるのは許しません。」
聞きなれた声に顔を向けると其処には豪奢なドレスを着たローデリヒが立っていた。
「あら、」
そう言うと顔をまじまじと眺められる。
近すぎるのではないだろうか、と思ったところでローデリヒのスカートが思いっきり捲れ上がった。女性もののセクシーな下着が丸見えになる。
「!!」
その後ろには猫の耳を付けたフランシスが楽しげに立っていた。
「クイーンの今日の下着は黒のレースか。」
「このお馬鹿さんが!!今日こそその首刎ねて差し上げます。」
そう言うとローデリヒは素早くスカートを上げて太ももに隠していた小型のナイフを取り出そうとした。が、ギルベルトに抑えられる。
「クイーン無理するな。」
それと同時にフランシスの背中には何時の間に現れたのか、衛兵のような格好をしたルートヴィッヒの銃が突き付けられていた。フランシスは観念したという風に両手を上げる。
「縛りあげておしまいなさい。」
瞬く間に縛りあげられたフランシスがルートヴィヒに確保された。
「貴方はこちらにいらっしゃい。」
そう言ってローデリヒに腕を引っ張られる。そこで吾輩のスイッチがはいった。
「何故吾輩が貴様の言うことに従わなければならんのだ!!」
その言葉にひどくビックリした様子のローデリヒにこちらの方が驚いた、これではまるでこちらが悪いようではないか。
「クィーン、お茶の準備が整いました。」
そこに現れたのは。
「リヒテン!」
こちらは可愛らしいメイド姿。
「あの、どうされたのですか?」
ひどく心配されているようだ、リヒテンに心配をかけるのは心が痛むのでここは大人しく従うことにする。
「何でもない、行くぞ。」
案内するように促すと、ローデリヒはホッとしたような顔をして案内を始めた。
――15分後――
「はて、ここは何処でしょう?」
やはりこ奴はローデリヒである。
「貴様あの珍妙な建物に向かっているのでは無いのか。」
「そうなんですけど、これはきっと城が私から離れて行ってるんです。」
その表情は真剣そのもので。ああ!本当に!!
吾輩は先ほどとは逆にローデリヒの腕をつかむと驚くべきスピードで城へと向かった。
「こんなに早く着いたのは初めてです。」
「それは良かったのである。」
幾分かげんなりと応対しているのに嬉々として返されて余計に疲労がたまる。
そして急にローデリヒに抱きつかれた。
「キングお帰りなさい。」
あまりのことに全身が硬直する。
「ところで貴方どうしてそんな恰好をしているのです?」
断じてそれを貴様に言われたくは無い。
「貴方が引き込もってばかりでしたから、ウサギも衛兵も気づかないじゃありませんか。」
「キング、こちらに着替えてくださいまし。」
そう言ってリヒテンから差し出されたのはローデリヒとお揃いの男性用の衣装。目眩がする。
いくらリヒテンの頼みとはいえ、ローデリヒの前でそれは頂けない。
「だってそいつはキングじゃないからね。」
どこから現れたのか、ローデリヒの耳元に顔を寄せてフランシスが囁く。
「!!!」
「このお馬鹿さんが!そんな訳がないでしょう!」
勢いよく立ちあがるローデリヒを後ろから楽しげに抱き締めだした。
その光景をリヒテンの前に立って遮る。
「お兄さんは何でも知ってるんだよ。なんなら本人に聞いてみればいいんじゃない?」
そうこうしている内にローデリヒは身動きが取れなくされていく。
「キング!何とかしてください。」
ダショーン!!!
フランシスがいけ好かないので無意識に身体が動いていた。
その音を聞きつけてギルベルトとルートヴィヒが部屋に入ってきた。
「何時の間に抜けだしたんだ。」
「ったく、クィーンに悪戯していいのは俺様だけだっつってんだろ!」
そうしてフランシスは再び縛りあげられていった。
「吾輩はキングとやらでは無い。」
そう告げた時のあ奴の顔ときたら。
「似ておいででしたので、てっきりキングだと思ってしまいました。許してくださいまし。」
「まぁ、よいのである。」
「クィーンのことも嫌いにならないでくださいまし。」
「ああ。」
もともとあ奴とは反りが合わないのだが、それは伏せておく。
「クィーンはキングのお帰りをもうずっと長い間待っていらしたのです。」
「そうであるか。」
クィーンとやらの嬉々とした顔が思い浮かぶ。あ奴のあんな顔は子供の頃以来であるな。
「私が元の場所に帰して差し上げます。」
「聞けば貴方ウサギの穴から落ちてきたそうですね。」
「私はハートのクィーンですから、問題ありません。」
「うむ。」
「少しだけこのままでいさせてください。」
ぎゅっと抱きつかれる。普段ならローデリヒにこんなことをされるなど思いもしないのだが、不思議とその感触が心地よかった。
「さようなら。」
そう言って頬にキスを受けた。
目が覚めるとそこはバイルシュミット家のベッドだった。
「気がつきましたか?」
目の前にローデリヒがいる。何だかデジャウを感じる。
「貴方急に来たかと思うと私に抱きついてキスをしだしたものですから、頭でも打ったのかと心配しましたよ。」
「!!!」
「それは断じて吾輩では無いのである!!」
アリスの世界が大好きです。オーストリアさんも大好きです。お付き合い頂いてありががとうございました!
だから貴方とだけは絶対嫌だと言いましたのに。
戦争はハンガリーの助力もあり、その後も紆余曲折はあったものの 表立った戦いは終わりを迎えた。ギルベルトとも表面上は 穏やかな関係が保たれている。それなのにローデリヒには 困ったことがあった。あの日からあの人の温もりが忘れられない。 たった一度きりで、あんなに酷い状況で、貴方は私のことなど 嫌いだと判っているのに。そう思うと知らずため息がこぼれた。 私は此ほど貴方のことが好きだというのに。 この想いを伝えても報われないのだ。
しかしそんな彼から今夜部屋に来るようにと手紙が届いた。
他の者なら絶対に受けない内容なのだが、即座に了承の返事を返していた。
以前放たれた彼の言葉を思い出す『その辺の女よりよっぽど良いぜ』
あの言葉は本当だったのだ。それならば、彼の傍に居られるなら
例え身体だけの関係であってもいい。それ程までにローデリヒは思い詰めていた。
夜も更ける頃にギルベルト邸へ向かう。邸宅では案内の者に少し驚いた顔をされたが黙って部屋へ通された。
「よぉ」
「今晩は」
部屋に入ると眉を顰めた。ギルベルトの机の前には大量の酒類が並んでいたからだ。まさか彼は酔っ払って自分に手紙を送ってきたのではないだろうか。そんな疑問が浮かぶ。
「勿論抱かれるつもりで来たんだろ?」
「ええ」
その言葉を聞いて安堵する。今はその気が無いわけでなさそうだ、ならば彼が正気に戻らないうちに事を済ませなければならない。
私はギルベルトの手に握られているワインを奪って一気に喉に流し込んだ。それ程酒に強くは無いので体の中が瞬時に熱くなる。そう言えば一度他の男に酔わされたこともあった。そんなことを回想しながらギルベルトにキスをする。
少し狭いがこの際ソファの上でも仕方がない。全て脱ぐのは忍びないので自分の服の前を肌蹴させて下は取り去った。
ギルベルトの服に手をかけるが上手く外せなくてもどかしい。脱がされるのは慣れていても脱がすのはこれが初めてだった。
彼の胴を跨ぐ格好で挑んでいると、自分のものと彼の起ち上がったものが触れ合った。彼が興奮していることに自分のものも反応を示す。
彼の服を脱がせなければこのままでは汚れてしまう。
そう思っているのに彼は私のものに手を伸ばし、根元を握ると先だけを弄びだした。
「!?」
あまりのことに彼の服から手を放し、口元を押さえる。
くにくにと先だけを弄られて耐えられない先走りが彼の手を濡らしている。あまりに執拗にそこばかりを責められて逝くこともできず涙が零れた。
上を脱がすことを諦めて震える手でギルベルトの下を寛げた。
私などで彼が興奮するのか半信半疑だったが、自分が手を触れることなく立ち上がっているそれに安心する。
「も…ぉ」
執拗に私の先ばかり弄る彼の手を引き離して、蕾に手を触れる。こちらに来る前に解しておいたそこは柔らかく、すぐに受け入れることができる程だ。
私のその行動を見て彼のものが更に大きくなった。
蕾を広げて彼のものを受け入れる。全て受け入れて安堵していると彼がゆるゆると動き始めた。その緩い快感に耐えられなくて身体が彼の胸へ倒れた。耳元で彼が囁く。
「お前の中は気持ちいいな。」
その言葉でキュッと彼を締め付けるのがわかる。それと同時に彼の熱を受け止め、自分も達した。
「愛してる。」
その言葉が本当に発せられたのか判然としないまま意識が飛んだ。これが現実ならば私もです。と伝えたかったのに。
それからの彼は人が変わったかのように優しかった。あまり会う時間は無かったけれど、本当に私の事を愛してくれているのではないかと思うほどに。まるで恋人同士のように愛し合った。
そして私は知らぬ間に彼が私の事を『あの約束を交わした昔のように』愛してくれていると信じ込んでいたのだ。その日が訪れるまでは。
「ギル…ベルト…」
戦場で俺はローデリヒを見下ろしていた。
「それでも私は…貴方を永遠に愛しています…」
そう言って美しいアメシストが閉じられた。
完膚なきまでに叩きつぶした。もう起き上がれない程に。
何故今まで気付かなかったのだろう。
「嘘だろ…」
俺がお前を殺すなんて。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!!
そんな寛大な方いるんでしょうか!?